Q&A FROM THE COACHES’ SEMINAR
コースの打ち分けは、骨盤でやるのか。
9/20 指導者講習会の質問に答えます
「内角・外角は骨盤の向きで打ち分けている」——講習会で出たこの意見に、体修塾の答えを、140km/h超の球速帯を前提にしたタイムラインで整理します。
講習会で出た、一つの意見
9月20日の体修塾指導者講習会で、こんな意見が出ました。
「アウトコースとインコースの打ち分けは、骨盤の向きでやっている」
現場で選手を見ている指導者の方からの、率直な意見です。実際、外角を打つときの選手を横から見ると、骨盤が内角のときより浅く開いているように見えることがあります。観察としては、決して間違っていません。
ただ、体修塾はコースの打ち分けを骨盤ではやりません。その理由を、この記事でまとめます。講習会の場で答えた内容を、もう一段整理したものです。
体修塾の答え:コースは上半身で分ける
先に結論を書きます。
下半身(骨盤)は、毎回同じ。コースによって変えるのは上半身です。
上半身で変えるのは、次の2つです。
- 胸椎(胸郭)の回旋量……内角なら胸椎(胸郭)を深く回してヘッドを体の近くに通す。外角なら回旋を浅くしてヘッドを外へ走らせる
- フリップの選択……内角ならインサイドフリップ、外角ならアウトサイドフリップ
「胸椎(胸郭)」と書いたのは、背骨の背中側の部分(胸椎)と、それを囲む肋骨のかご(胸郭)が一体で回るからです。腰の骨(腰椎)は安定させたまま、その上の胸の部分だけを回す。体修塾のトレーニングで「腰椎は安定、胸椎は動かす」と言っているのと同じ場所の話です。
フリップとは何か
フリップは、体修塾の打撃教科書で使っている言葉です。ひとことで言えば、両手でバットを「返す」操作のことです。ヘッドがグリップを追い越して入れ替わる、あの瞬間の使い方を指しています。
体修塾では、この返し方を場面で使い分けます。内角なら体の近くで返す(インサイドフリップ)、外角なら体の外側へ向けて返す(アウトサイドフリップ)。返す場所が変わるだけで、ヘッドの通り道が変わります。
つまり、内角と外角で変わるのは「両手でどこで返すか」です。これは腕とバットの操作であって、骨盤の仕事ではありません。
※どちらの手をどう使うか、という中身の部分は、実際にバットを持って確かめないと伝わらないので、ここでは省きます。BSS(スキルスクール)や個別指導で扱っている内容です。
骨盤の仕事は「捻転差の土台」であって「コースの判断」ではない
では骨盤は何をしているのか。
体修塾のスイングでは、骨盤はステップインの並進中に投手方向へ回り始めます。踏み込み足に体重が完全に乗り、足裏が地面に触れ、地面反力を十分にもらえている状態——体修塾ではこれを完全着地と呼びます——になった瞬間、骨盤の回旋は終わっています。
このとき上半身はまだ捕手側に残っています。下は回り終わり、上は残っている。この差が捻転差です。完全着地で踏み込み足が地面から受ける反力(キックバック)で骨盤は急停止し、そこで捻転差が最大になります。あとはこの差が解けていく力で上半身が振り出されます。
つまり骨盤は、着地時点で「動きの仕事」を終えています。着地は回旋の始点ではなく、止める点です。着地後に動くのは上半身だけです。
ここが、今回の話の核心です。
タイムラインを、高速球速帯で描く
体修塾は、140km/hを超える高速球速帯を打つことを中心に打撃を考えています。速いボールを打てる設計にしておけば、遅いボールは時間の余裕として返ってくるからです。逆は成り立ちません。
その前提で、時間を並べます。数字はおおよその目安です。
- ボールの飛行時間……140km/hで約0.43秒、150km/hで約0.40秒(リリースから捕手のミットまで)
- 完全着地からインパクトまで……約0.15〜0.2秒
- 見た情報が動きに反映できる限界……インパクト前の約0.1〜0.15秒で見た情報は、もう動きに反映されません(脳が命令を出してから体が動くまでの遅れがあるため)
これを引き算すると、骨盤が回っている時間帯はどこになるでしょうか。
骨盤はステップインの並進中に回り始め、完全着地で止まります。完全着地がインパクトの0.15〜0.2秒前なら、骨盤が回っているのはリリース直後からの、最初の0.2秒あまりです。
このとき、ボールは投手の手を離れて、まだ半分も飛んできていません。18メートル先から来る球が内角か外角かは、この時点で数十センチの差です。しかもここは、変化球がまだ曲がり始めてもいない時間帯です。
骨盤の角度を決める時間帯に、コースを判断できる情報は、まだ届いていないのです。
「判断は不可能だ」とまでは言いません。ただ、情報がない段階で決めるということは、実質的にはヤマを張っていることになります。ヤマが当たれば打てる。外れれば、修正手段が残っていない。高速球速帯では、この差がそのまま結果になります。
判断が要る仕事は、最後に動く部位に置く
体修塾のスイング設計は、ここから逆算しています。
- ボールを見なくても同じでいい仕事——土台をつくる、捻転差をつくる——は、最初に動いて最初に終わる骨盤に置く
- ボールを見てから変える必要のある仕事——コースに合わせる——は、最後に動く上半身(胸椎(胸郭)の回旋量とフリップ)に置く
完全着地からインパクトまでの0.15〜0.2秒は、ボールの情報が最も揃っている時間帯です。ここで動いているのが上半身だけなら、上半身にコースの仕事を任せるのが自然です。
だから「下半身は毎回同じ。上半身が毎回違う」になります。役割分担ではなく、時間の並びからそうなるのです。
骨盤でコースを分けると、何が起きるか
逆に、骨盤の向きでコースを分ける設計にすると、3つのことが起きます。
- 情報のない段階で決めることになる……前述のとおり、実質ヤマ張りになります
- 毎回違う土台で振ることになる……骨盤の角度が変われば、その上に乗る上半身の設計もその都度変わります。「同じスイング」が積み上がらず、再現性が失われます
- 外したときの修正手段がなくなる……骨盤で外角に合わせてから内角に来たとき、上半身で取り戻せる幅はわずかです。骨盤が同じなら、胸椎(胸郭)の回旋量とフリップの切り替えで最後まで対応できます
冒頭の「外角のとき骨盤が浅く見える」は、たしかにそう見えることがあります。体修塾は、その原因を2つの順番で疑います。
一番に疑うのは、その選手の骨盤の回旋角度が、もともとそこまで出ていない可能性です。 外角だから浅くしているのではなく、どのコースでも骨盤が十分に回っておらず、内角のときだけ上半身の動きに引っ張られて回って見えている。この場合、直すべきはコースの打ち分けではなく、骨盤の回旋そのものです。
その次に疑うのが、ポイントを深く(捕手寄りに)取り、胸椎(胸郭)の回旋を浅くした結果として、骨盤まで浅く見えているという可能性です。
どちらの場合も、骨盤を先に決めた結果ではありません。「見てわかる動作」と「実際に機能している動作」は、ここでもズレます。
現場での見方
指導者の方が明日から見るポイントを、3つに絞ります。
- 踏み込み足の爪先と、へその向き……内角と外角で同じ向きになっているか。変わっていれば、上半身でやるべき調整を下半身でやっています
- 完全着地の時点で、上半身が残っているか……着地と同時に肩まで回っていれば、捻転差がつくれていません
- 内角と外角で変わっているのは、胸の回る量と両手の操作か……フリップの選択が切り替わっているか。ここが変わっていて、爪先とへそが変わっていなければ、設計どおりです
角度計で測る必要はありません。爪先とへそと胸、この3か所の関係を見てください。
講習会での質問は、いつでも歓迎です
「うちはこうやっている」という意見が出るのは、講習会として一番ありがたいことです。体修塾の答えは一つの設計図であって、押しつけるものではありません。
指導の中で「これはどこでやるべきか」と迷う場面があれば、公式LINEでひとことお送りください。話だけでも構いません。
代表 大林智也|日体大 体育学 / 上越教育大学院 スポーツ心理学修士
📍 新潟県柏崎市|新潟県全域・出張指導対応
